④職場の人間関係とメンタルヘルスケア

職場におけるストレスは、職場内の人間関係のみならず、顧客・窓口対応などの対人サービス等によっても起きており、メンタルヘルス対策の大きな課題になっています。
さらに職場におけるパワーハラスメント、嫌がらせ、いじめ、暴行、セクシャルハラスメント等のハラスメントに関する公的機関への相談件数、ハラスメントによる精神障害の労災認定件数もここ数年増加しています。

国は、平成30年3月に出された「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会報告書」の結果を踏まえ、パワーハラスメント対策を推進するために、令和元年6月5日、ハラスメント対策を強化した「女性の職場生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律」が交付され(令和2年6月1日施行)、労働施策総合推進法、男女雇用機会均等法および育児・介護休業法について、職場のハラスメントに関する部分が改正されました。

パワーハラスメント

労働施策総合推進法(労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律)の改正で、職場におけるパワーハラスメントとは、以下の3つの要件をすべて満たすものとされています。

  • 職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、
  • 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
  • 労働者の就業環境が害されること

なお、優越的な関係は、上司から部下に対して行われる場合が多いが、職場での経験年数や仕事における専門知識も含まれるので、先輩・後輩間や同僚間、さらには部下から上司に対して行われるものもあります。

パワーハラスメント防止のため、事業主と労働者には以下の事項に務めることが責務として法律上明確化されています。

事業主の責務としては

  • 職場におけるパワーハラスメントを行ってはならないこと等これに起因する問題(以下「ハラスメント問題」という)に対する労働者の関心と理解を深めること。
  • その雇用する労働者が他の労働者に対する言動に必要な注意を払うよう研修を実施する等、必要な配慮を行うこと。
  • 事業主自身(法人の場合はその役員)がハラスメント問題に関する関心と理解を深め、労働者に対する言動に必要な注意を払うこと。

労働者の責務としては

  • ハラスメント問題に関する関心と理解を深め、他の労働者に対する言動に注意を払うこと。
  • 事業主の講ずる雇用管理上の措置に協力すること。

事業主は職場のパワーハラスメントを防止するために以下の措置を講じなければなりません。

  1. 職場におけるパワーハラスメントの内容・パワーハラスメントを行ってはならない旨の方針を明確化し、労働者に周知・啓発すること。
  2. 行為者について、厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等の文書に規定し、労働者に周知・啓発すること。
  3. 相談窓口を予め定め、労働者に周知すること。
  4. 相談窓口担当者が、相談内容や状況に応じ、適切に対応できるようにすること。
  5. 事実関係を迅速かつ正確に確認すること。
  6. 速やかに被害者に対する配慮のための措置を適正に行うこと。
  7. 事実関係の確認後、行為者に対する措置を適正に行うこと。
  8. 再発防止に向けた措置を講ずること。
  9. 相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、その旨労働者に周知すること。
  10. 相談したこと等を理由として、解雇その他不利益取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発すること。

なお、上記改正法に基づいて、「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)」が策定されており、職場におけるパワーハラスメントの内容やパワーハラスメントに該当すると考えられる例、該当しないと考えられる例、事業主が講ずべき雇用管理上の措置の具体的な内容等について定められています。

相談体制の整備等の雇用管理上必要な措置を講じることの事業主への義務付けは、大企業に対しては、令和2年6月1日から施行されています(中小企業は、令和4年3月31日までの間は努力義務)。

セクシャルハラスメント

職場におけるセクシャルハラスメント、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントについては、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法により、雇用管理上の措置を講じることがすでに義務付けられています。

令和2年の法改正により、以下のとおり、防止対策が強化されました。

  1. セクシャルハラスメント等の防止に努めることを事業主及び労働者の責務として明確化
  2. 事業主に相談等をした労働者に対する不利益取扱いの禁止
  3. 自社の労働者が他社の労働者にセクシャルハラスメントを行った場合の協力対応

(1.2.の内容は職場におけるパワーハラスメントと同様です。)

なお、セクシャルハラスメント等の防止対策の強化の内容については、事業場の規模を問わず、令和2年6月1日から施行されています。

心理的負荷による精神障害の労災認定基準の改正

厚生労働省ではハラスメントにかかる心理的負担の評価、労災申請にかかる審査の迅速化や効率化について検討し、「心理的負荷による精神障害の労災認定基準(平成23年12月26日付け基発1226第1号)」(下図)を定めています。

評価方法【出来事+出来事後の総合評価】1段階による評価
特別な出来事「極度の長時間労働」を月160時間程度の時間外労働と明示
「心理的負荷が極度のもの」に強姦やわいせつ行為等を明示
具体例

労働時間
「強」「中」「弱」の心理的負荷の具体例を記載

強い心理的負荷となる時間外労働時間数等を記載
・発病直前の連続した2ヵ月間に、1月当たり約120時間以上
・発病直前の連続した3ヵ月間に、1月当たり約100時間以上
・「中」の出来事後に、月100時間程度 等
評価期間セクシャルハラスメントやいじめが長時間継続する場合には6ヵ月を超えて評価
複数の出来事具体的な評価方法を記載
・強+中または弱 →強
・中+中・・・ →強または中
・中+弱 →中
・弱+弱 →弱
近接の程度、出来事の数、その内容で総合判断
発病者の悪化発病後であっても特に強い心理的負担で悪化した場合は労災対象とする

令和2年6月から施行されたパワーハラスメント防止対策の法制化に伴い、職場における「パワーハラスメント」の定義が法律上規定されたことなどから、認定基準別表1の「業務による心理的負荷評価表」の改正を行い、評価表をより明確化、具体化しています(令和2年5月29日付け基発0529第1号)。

この改正により「心理的負荷評価表」は次のようになりました。
・「出来事の類型」にパワーハラスメント」を追加
・「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」を「具体的出来事」に追加
・「具体的出来事」の「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、または暴行を受けた」の名称を「同僚等から、暴行又は(ひどい)いじめ・嫌がらせを受けた」に修正
・パワーハラスメントに該当しない優越性のない同僚間の暴行やいじめ、嫌がらせ等を評価する項目として位置付ける