①健康診断

職場における健康診断は、労働者の健康状況を把握するための基本となる対策です。
労働者個人にとっては疾病の早期発見、健康確保のための健康意識の向上等の意義があり、事業者にとっては健全な労働力の確保のため、医師の意見を 勘案した上で、労働者が当該作業に従事してよいか(就業の可否)、当該作業に引き続き従事してよいか(適正配置)などを判断するたのものです。

また健康診断は、健康状況の経時的変化を含めて総合的に把握したうえで、労働者が常に健康に働けるよう保健指導、作業管理あるいは作業環境管理にフィードバックしていかなければなりません。

労働安全衛生法に基づき、労働者の健康状況を把握する健康診断は、一般健康診断と特殊健康診断に大別されます。

ア.一般健康診断

労働安全衛生法第66条第1項に定められた健康診断を指しており、その中には以下のような健康診断が含まれます。

  1. 雇い入れ時の健康診断
    常時使用する労働者を雇う入れた際の健康状態を把握し、適正な配置や就業後の健康管理の基礎資料を得るために行います。
  2. 定期健康診断
    常時使用するすべての労働者に定期(1年以内ごとに1回)に実施するもので、「一般健康診断」といえば、この定期健康診断のことを指す場合もあります。
  3. 特定業務従事者健康診断
    深夜業務、重量物の取扱い業務など安衛則に定められている「特定業務(第13条第1項第3号)」に常時従事している労働者に対し、対象となる業務による有害な健康影響を生じていないかを確認するため、定期健康診断と同じ項目の健康診断を、配置替えの際及び6ヵ月以内ごとに1回定期に実施するもので。
    (ただし、年2回のうち1回は医師の判断により省略できる検査項目があります。)
  4. 海外派遣労働者健康診断
    労働者を海外に6ヵ月以上派遣しようとするとき、又は海外に6ヵ月以上派遣した労働者を国内の業務に従事させるときは、定期健康診断項目に海外派遣労働者に対する健康診断項目のうち から医師が必要と認める検査項目を追加して健康診断を行ないます。
  5. 給食従事者の検便
    食堂または炊事場における給食の業務に従事する労働者に対し、雇い入れの際又は当該業務への配置替えの際、検便による健康診断を行ないます。

高齢化社内の進展等により、高血圧、虚血性心疾患、肝疾患、糖尿病などの生活習慣病を有する労働者が増加しています。
また、近年、比較的若年の者においても生活習慣病にかかる人が多くなっています。
このような生活習慣病を有する労働者に対し、職務上の適切な配慮や適切な健康管理がなされない場合、疾病が増悪することがあります。
したがって、経時的な変化に留意しながら疾病の早期発見と予防のための適切な管理を行うことが極めて重要です。
加えて、労働者の就業時およびその後の適性配置の判断に資するため、一般健康診断は貧血検査、肝機能検査、血中脂質検査、心電図検査、血糖検査等の項目を含めて実施されています。

イ.特殊健康診断

一定の有害業務に従事する労働者に対し、それぞれの業務に対する特別の項目について、医師による健康診断を行わなければなりません。
すべての労働者が受診する一般健康診断の定期健康診断では、幅広い意味で労働者の「健康」の状態を把握しますが、特殊健康診断の場合は、有害業務に従事する健康影響の有無を確認し、業務上疾病を予防をすることが目的となります。
よって健康診断結果を解釈する上で「有所見者(受診した労働者のうち異常の所見のある者)がいない」ことが前提となります。
特殊健康診断で「有所見者がいる」ことは、有害業務により健康障害を引き起こした可能性を示唆するものであるからです。

特殊健康診断は、法令により実施しなければならないものと、行政指導により実施が勧奨される健康診断に大別されます。

1)法令により実施義務のある特殊健康診断

  • じん肺健康診断
  • 高気圧作業健康診断
  • 電離放射線健康診断
  • 特定化学物質健康診断
  • 石綿健康診断
  • 鉛健康診断
  • 四アルキル鉛健康診断
  • 有機溶剤健康診断
  • 除染等業務従事者健康診断
  • 歯科特殊健康診断

じん肺健康診断は「じん肺法」に基づき、常時粉じん作業に従事する労働者に対して行う健康診断で、対象者の所見状況により健康診断の実施頻度(1年以内ごと、または3年以内ごと)が異なります。
それ以外の健康診断は、 安衛法第66条第2項及び第3項で定める有害業務に従事する者に対する健康診断になり、雇い入れ時または配置替えの際および6ヵ月以内に1回定期に実施しなければなりません。
さらに、「特定化学物質健康診断」の一部の化学物質及び「石綿健康診断」では、発がんなど長期間が経過した後に健康障害の発症の恐れがあることを考慮し、それらの業務に従事させなくなった場合においてもその者を雇用している間は、特殊健康診断の対象と しなければなりません。

2)指導勧奨による特殊健康診断

法令で定められた有害な業務以外でも、健康に影響を及ぼす恐れのある有害業務については、行政指導により特殊健康診断を実施することが勧奨されています。
具体的には、「情報機器作業」「騒音作業」「重量物取扱い作業、介護・看護作業等腰部に著しい負担のかかる作業」「振動工具の取扱い業務」など29種類があり、それぞれ指針・通達等で健康診断項目等が定められています。