⑤過重労働による健康障害防止

過重労働による脳・心臓疾患の発症は、本人やその家族はもちろん、企業にとっても重大な問題です。
社会的にもいわゆる「過労死」等として大きな問題となっていることから、過労死のない社会を実現するという目的のもと、平成26年「過労死等防止対策推進法」が公布され、過労死等の防止のための対策を効果的に推進することが国の責務と定められました。
平成27年には過労死等の防止のための対策等を取りまとめた「過労死等の防止のための対策に関する大綱」が閣議決定されています。
この大綱は3年ごとに見直しが行われる予定です。
大綱では将来的に過労死をゼロとすることを目指し、以下の6つのについて数値目標が示されています。

  1. 週労働時間40時間以上の雇用者のうち、週労働時間60時間以上の雇用者の割合を5%以下(2025年)
  2. 労働者数30人以上の企業のうち
    • 勤務間インターバル制度を知らなかった企業割合を5%未満(2025年)
    • 勤務間インターバル制度を導入している企業割合を15%以上(2025年)
      特に勤務間インターバル制度の導入率の低い中小企業への導入に向けた取組みを推進する。
  3. 年次有給休暇の取得率を70%以上(2025年)
  4. メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業場の割合を80%以上(2022年)
  5. 仕事上の不安、悩みまたはストレスについて、職場に事業場外資源を含めた相談先がある労働者の割合を80%以上(2022年)
  6. ストレスチェック結果を集団分析し、その結果を活用した事業場の割合を60%以上(2022年)

平成30年7月に、働き方改革を推進して、長時間労働を是正し、多様で柔軟な働き方の実現を目指すため、労働基準法、労働安全衛生法等の改正が公布されています。
労働時間に関する制度の見直しとしては、時間外労働の上限の設定、勤務間インターバル制度の普及促進、産業医・産業保健機能の強化等が実施されています。

労働者に業務による明らかな過重負荷が加わることにより、脳血管疾患または虚血性心疾患等を発症したとして労災認定された件数は令和2年には、194件となっています。

業務による脳・心臓疾患の発症を防止するためには、疲労回復のための十分な睡眠時間または休息時間が確保できないような長時間にわたる過重労働を排除するとともに、疲労が蓄積する恐れのある場合の健康管理対策を強化することが必要です。
労働安全衛生法では、すべての事業者を対象に、長時間労働者への医師による面接指導の実施を定めています。
また、事業者は、長時間労働者の情報を産業医に提供しなければならないものとされています。
(労働安全衛生規則第52条の2第3項)
なお、働き方改革関連法の施行に伴い、これらの措置のさらなる推進が図られています。

また、「過重労働による健康障害防止のための総合対策」(平成18年策定、令和2年改正)において、過重労働による健康障害を防止するために事業者に対し必要な措置等を講じるよう求めています。

過重労働による健康障害を防止するためには、時間外・休日労働時間の短縮、事業者、産業医等による事業場内の健康管理の徹底に加え、厚生労働省や中央労働災害防止協会のホームページ上で公開されている「労働者の疲労蓄積度自己診断チェックリスト」などを活用し、労働者自身も自らの積極的な健康管理を進めていくことが重要です。