④化学物質をめぐる制度改正 <1>

新たな化学物質規制の制度導入 -1-

国内で輸入、製造、使用されている化学物質は数万種類に上り、その中には、危険性や有害性が不明な物質が多く含まれます。
化学物質を原因とする労働災害(がん等の遅発性疾病を除く。)は年間450件程度で推移しており、がん等の遅発性疾病も後を絶ちません。
これらを踏まえ、新たな化学物質制度が導入されました。

リスクアセスメント対象物について、リスクアセスメントの結果に基づき事業者自ら選択した対策を実施する制度(化学物質 の自律的な管理)が導入されました。
また、リスクアセスメント対象物のうち、暴露の上限となる濃度基準値を国が設定した化学物質は、暴露を濃度基準値以下にすることが求められます。

リスクアセスメント対象物に、国によるGHS分類で危険性・有害性が確認されたすべての物質が順次追加されます(令和6年4月1日施行)。

a.労働者がリスクアセスメント対象物に暴露される濃度の低減措置

①労働者がリスクアセスメント対象物に暴露される程度を、以下の方法等で最小限にする。
 1) 代替物等を使用する
 2) 発散源を密閉する設備、局所排気装置または全体換気装置を設置し、稼働する。
 3) 作業の方法を改善する
 4) 有効な呼吸用保護具を使用する

②リスクアセスメント対象物のうち、一定程度の暴露に抑えることで労働者に健康障害を生ずるおそれがない物質として厚生労働大臣が定める物質(濃度基準値設定物質)は、労働者が暴露される程度を、厚生労働大臣が定める濃度の基準(濃度基準値)以下としなければならない。

b.aに基づく措置の内容と労働者の暴露の状況を、労働者の意見を聞く機会を設け、記録を作成し、3年間保存する。
ただし、がん原性のある物質として厚生労働大臣が定めるもの(がん原性物質)は30年間保存。

c.a①のリスクアセスメント対象物以外の物質も、労働者が暴露される程度を、a① 1)~4)の方法等で、最小限度にするよう努める。

皮膚・眼刺激性、皮膚腐食性または皮膚から吸収され健康障害を引き起こしうる化学物質と当該物質を含有する製剤を製造し、または取り扱う業務に労働者を従事させる場合には、その物質の有害性に応じて、以下の労働者に 障害等防止用保護具(保護メガネ、不浸透性保護衣、保護手袋または履物等の適切な保護具)を使用させなければならない。

  1. 健康障害を起こすおそれのあることが明らかな物質を製造し、または取り扱う業務に従事する労働者
  2. 健康障害を起こすおそれがないことが明らかなもの以外の物質を製造し、または取り扱う業務に従事する労働者(1.の労働者を除く)

衛生委員会の付議事項に、(2)a と(8)a に関する以下 1.~4. の事項を追加し、化学物質の自律的な管理の実施状況の調査審議を行うことが義務付けられた。

  1. 労働者が化学物質に暴露される程度を最小限度にするために講ずる措置に関すること
  2. 濃度基準値の設定物質について、労働者が暴露される程度を濃度基準値以下とするために講ずべき 措置に関すること
  3. リスクアセスメントの結果に基づき事業者が自ら選択して講ずる暴露防止措置の一環として実施した健康診断の結果とその結果に基づき講ずる措置に関すること
  4. 濃度基準値設定物質について、労働者が濃度基準値を超えて暴露した恐れがあるときに実施した健康診断の結果とその結果に基づき講ずる措置に関すること

※衛生委員会の設置義務のない労働者数50人未満の事業場も、労働安全衛生規則第23条の2に基づき、上記の事項について、関係労働者からの意見聴取の機会を設けなければならない。

化学物質を製造し、または取り扱う同一事業場で、1年以内に複数の労働者が同種のがんに罹患したことを把握したときは、その罹患が業務に起因する可能性について医師の意見を聞かなければならない。
また、医師がその罹患が業務に起因するものと疑われると判断した場合は、遅滞なく、その労働者の従事業務の内容等を、所轄都道府県労働局長に報告しなければならない。