⑤化学物質等の危険性有害性の表示制度

化学物質等による労働災害には、事業者および労働者が化学物質等の危険有害性、適切な取扱い方法等を知らなかったことを原因とするものが見られます。
こ の背景には、化学物質等の危険有害性を外見から判断することが非常に困難であること、化学物質等はさまざまな種類のものが各事業場で使用されていること、 事業場および化学物質等を取り扱っている労働者に化学物質等の危険有害性等に関する情報が十分に周知されていないこと等があります。

国際的には、欧米諸国等において安全データシート(SDS)等の制度が定着しており、また、国際労働機構(ILO)において、「職場における化学物質の使用の安全に関する条約(第170号条約)」が採択され、職場における化学物質等の危険有害性の周知の重要性が確認されています。
さらに、「化学品の分類および表示に関する世界調和システム」(GHS)に関する国連勧告により、個々の化学物質について、危険有害性の分類項目ごとに、それぞれの危険有害性の程度を区分し、その区分に応じた絵表示(下図)、注意喚起語、危険有害性情報等を表すこととされています。
わが国においても、GHS国連勧告を踏まえた危険有害性の表示制度が、労働安全衛生法に取り入れられています。

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また、平成24年4月の労働安全衛生規則の改正に併せて「化学物質等の危険性又は有害性等の表示又は通知等の促進に関する指針」も改正されました。その概要は以下のとおりです。

①GHSに基づく分類の結果、以下の定められた物理化学的危険性または健康有害性を有するものについては、その容器または包装に一定の危険有害性についてのラベル表示を行い、またこれを他人に譲渡提供する場合には、相手側の事業者に対してSDSを交付すること。

  1. 危険有害性クラス(引火性液体のような物理化学的危険性および発がん性、急性毒性のような健康有害性の種類)
  2. 危険有害性区分(危険有害性の強度等)
  3. ラベル表示

②事業者は、事業場内で労働者に危険有害化学物質等を扱わせるときは、以下のことを行うこと。

  1. 表示に関して
    ・化学物質の容器まはた包装への表示(困難な場合は、代替措置が可能)
    ・容器/包装を用いない場合は、表示内容の掲示
    ・表示、掲示、SDSの内容に変更が生じた場合の速やかな修正
  2. SDSに関して
    ・自ら化学物質を製造/輸入する事業者は、SDSの作成
    ・SDSの作業場の見やすい場所への掲示等による労働者への周知
    ・リスクアセスメントへの活用
    ・安全衛生教育への活用
  3. 安全衛生委員会での審議

なお、表示および文書交付制度の運用に当たっての留意事項が「労働安全衛生法等の一部を改正する法律等の施行等(化学物質等に係る表示及び文書交付制度の改善関係)に係る留意事項について」により示されています。

労働安全衛生法第57条により容器等への表示が義務づけられている物質は、104物質から通知物質(現行640物質)に拡大されます。
また、表示内容は、名称、成分、人体に及ぼす作用/安定性および反応性、標章(絵表示)などとなっています。
労働安全衛生法第57条の2における文書(SDS)の交付義務については、労働安全衛生法第56条に基づく製造許可物質、労働安全衛生法施行令第18条の2で定められている物質として、許容濃度が勧告されている等の化学物質の合計640物質が対象となっています。
記 載内容は、名称、成分および含有量、物理的および化学的性質、人体に及ぼす作用、貯蔵または取扱い上の注意、流出その他の事故が発生した場合において講ず べき応急の措置、通知を行うものの氏名(法人にあってはその名称)、危険性又は有害性の要約、安定性および反応性などとなっています。