③特定化学物質による健康障害予防の規制

特定化学物質は労働者に職業がん、皮膚炎、神経障害などを発症させるおそれのある化学物質です。
現在70種類の化学物質が特定化学物質障害予防規則(以下「特化則」)により規制されています。

これらの化学物質による健康障害の予防対策について特化則では、規制対象物質を下記のように分類して、健康障害の防止措置を規定しています。

  1. 製造設備の密閉化、作業規程の作成などの措置を条件とした製造の許可を必要とする「第1類物質
  2. 製造もしくは取扱い設備の密閉化または局所排気装置等の措置を必要とする「第2類物質
  3. 主として大量漏洩事故の防止措置を必要とする「第3類物質

ア.特定化学物質の発散の防止
特定化学物質による健康障害を防止する上で、労働者の特定化学物質へのばく露を防止することが最も重要で、かつ基本的な対策です。
特化則では、化学物質の種類や取り扱われる工程などに応じ、特定化学物質の蒸気、粉じんなどが発散する場所において、発散源の密閉化、局所排気装置等の設置など発散源に応じて講ずべき措置を具体的に定めています。

イ.漏洩の防止
特定化学物質による急性中毒や薬傷は毎年多数発生していますが、これらの中には設備の異常や誤操作により特定化学物質が漏洩して被災する例が多く見られます。
このため特定化学設備(第3類物質または第2類物質のうち特定のものを内部に保有する定置式の設備)の材料は腐食しにくいものとし、バルブやコックの材質は耐久性のあるものとするよう規定されています。
ま た、特定化学設備を使用する作業では誤操作を防止するため、バルブやコックについては開閉の方向などを表示することとされ、さらに、特定化学物質の漏洩を 防止するためあらかじめ作業方法や手順などを適切かつ確実なものとするなどの作業規程を定め、これに従って作業を行うこととされています。

ウ.発がん物質等に関する特別な管理
第1類物質および第2類物質の中には、職業がんなど労働者に重度の健康障害を生ずるおそれがあり、その発症までに長い期間がかかるものがあります。
特化則ではこれらを「特定管理物質」として、次のような措置を講ずるように規定しています。

  1. 人体へ及ぼす作用、取扱い上の注意事項を作業場に掲示
  2. 作業の記録の作成およびその30年間の保存
  3. 作業環境測定の結果および健康診断結果の30年間保存

エ.一酸化炭素中毒の予防
特定化学物質による中毒の中で特に多いのが、第3類物質である一酸化炭素による中毒です。
一酸化炭素は極めて急性毒性が強く、死に至ることも多いものです。
特化則は一酸化炭素の製造、取扱いについて規制していますが、実際に発生した災害をみると、自然換気が不十分な場所でのガソリンエンジン等の内燃機関や火気等の使用により発生したものが原因として目立っています。
一酸化炭素は各種燃料の不完全燃焼で発生するほか、工業用燃料などの主成分として幅広く使用されており、また無色、無臭の気体であることから一酸化炭素を吸入しても気が付かないことが多く、第三次産業を含むさまざまな業種で災害が発生しています。
燃焼器具を使用する場合には十分な換気の確保が必要です。
対策としては下記のような措置をとることが必要です。

  1. 閉塞空間や自然換気の不十分な場所では内燃機関等の使用を避けること
  2. やむを得ず使用する場合には、十分な換気を行い、一酸化炭素が滞留しないようにすること
  3. コンクリートの養生等で練炭等を燃焼させる場所へは、立入禁止の措置を講じ、その旨を周知するとともに、内部に立ち入る際にはあらかじめ十分な換気が行われたことを検知器等で確認すること

オ.労働衛生教育、衛生管理体制
特定化学物質を取り扱う作業については、作業者が取り扱う化学物質の有害性、中毒性の予防対策等について十分に理解よう、労働衛生教育が必要です。
また、特定化学物質を取り扱う作業については特定化学物質作業主任者の選任が必要です。
特定化学物質作業主任者は、作業の指揮、局所排気装置等の点検、保護具の着用状況の確認など現場において労働衛生管理にあたります。