⑥化学物質等による危険性または有害性等の調査とその結果に基づく措置

現在規制の対象となっている物質についても多くの中毒災害が発生しています。
これらの多くは化学物質の危険有害性が認識されていないことや、不注意な取扱いが行われることによって生じています。
改正された労働安全衛生法では、化学物質のリスクアセスメントが義務化されています。(平成26年6月25日公布、平成28年6月1日施行)
職場におけるリスクアセスメントを着実に実施し、その結果に基づいて労働者の健康障害を防止するための措置を講じることが必要です。

リスクアセスメントの方法については、「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針(化学物質リスクアセスメント指針)」が定められています。
化学物質リスクアセスメント指針は、業種を問わず、化学物質等による危険性又は有害性を対象としています。

ア.実施体制・実施時期等
リスクアセスメントは、全社的な実施体制の下で推進しなければなりませんが、技術的な事項については、適切な能力を有する化学物質管理者等により実施します。
リスクアセスメントの実施時期は、
「化学物質等を原材料として、新規に採用し、または変更するとき」
「化学物質等を製造し、または取り扱う業務に係る作業の方法又は手順を新規に採用し、または変更するとき」
「化学物質等による危険性又は有害性等について変化が生じ、または生じるおそれがあるとき」
に実施する必要があります。
ま た、化学物質等に係る労働災害の発生した場合であって、過去のリスクアセスメントの内容に問題のある場合や、一定期間経過し新たな知見が得られたとき、過 去にリスクアセスメントを実施したことがないとき等については、計画的にリスクアセスメントを実施し、職場にあるリスクを継続的に除去・低減していくこと が大切です。

イ.対象の選定と情報の入手
事業場における「すべての化学物質等による危険性又は有害性等」をリスクアセスメントの対象とします。
リ スクアセスメントを実施する場合に事前に入手する必要がある情報としては、SDS、関連する機械設備等についての危険性又は有害性に関する情報、作業標 準・作業手順書等、作業環境測定結果、特殊健康診断結果、生物学的モニタリング結果、個人ばく露濃度の測定結果などがあります。
また、新たな化学物質等の提供等を受ける場合には、当該化学物質等を譲渡し、または提供する者から、当該SDSを入手することが必要です。

ウ.危険性又は有害性の特定
作業標準等に基づき、化学物質等による危険性又は有害性を特定するために必要な単位で作業を洗い出した上で、GHSで示されている危険性又は有害性の分類等に則して、各作業における危険性又は有害性を特定します。

エ.リスクの見積り
化学物質等による疾病のリスクの場合には、「化学物質等の有害性の度合(強さ)」および「ばく露の量」のそれぞれを考慮して、見積もることができます。
化学物質等への労働者のばく露量を測定し、測定結果を日本産業衛生学会の許容濃度等のばく露限界値と比較してリスクを見積もる方法が確実性の高い方法です。
ば く露量の測定方法としては、労働者に個人サンプラー等を装着して呼吸域付近の気中濃度を測定する個人ばく露測定の他、一般的に広く普及している作業環境測 定の気中濃度と作業状況からばく露量を見積もる方法や労働者の血液、尿、呼気および毛髪等の生体試料中の化学物質またはその代謝物の量を測定し、人の体内 に侵入した化学物質のばく露量を把握する生物学的モニタリング方法があります。
いずれの方法も、測定値の精度やばらつき、作業時間、作業頻度、換気状況などから、日間変動や場所的または時間的変動を考慮する必要があります。
また、SDSデータを用いて、GHS等を参考にして有害性をレベル分けし、使用量等からばく露量を推定し、リスクを見積もるコントロール・バンディングなどの定性的な方法があります。

リスクの見積りによりリスク低減の優先度が決定すると、その優先度に従ってリスク低減措置の検討を行います。

オ.リスク低減措置の検討および実施
法令に定められた事項がある場合にはそれを必ず実施するとともに、下記のような優先順位でリスク低減措置の内容を検討の上、実施します。

  1. 法令に定められた事項の実施
    (該当事項がある場合)
  2. 危険性又は有害性の高い化学物質の使用中止、より低い物への代替化等
  3. 化学反応プロセスの運転条件の変更等による負傷が生じる可能性またはばく露の低減
  4. 工学的対策
    (防爆構造化、安全装置の二重化、設備の密閉化、局所排気装置の設置等)
  5. 管理的対策
    (マニュアルの整備、立入禁止措置、ばく露管理等)
  6. 個人用保護具の使用