⑧化学物質等による危険性または有害性等の調査とその結果に基づく措置

現在規制の対象となっていない物質についても多くの中毒災害が発生しています。
これらの多くは化学物質の危険有害性が認識されていないことや、不注意な取扱いが行われることによって生じています。
改正された労働安全衛生法では、通知対象物(674物質)のリスクアセスメントが義務化されています。
職場におけるリスクアセスメントを着実に実施し、その結果に基づいて労働者の健康障害を防止するための措置を講じることが必要です。

リスクアセスメントの方法については、「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針(化学物質リスクアセスメント指針)」が定められています。
化学物質リスクアセスメント指針は、業種を問わず、化学物質等による危険性又は有害性を対象としています。

ア.実施体制・実施時期等
リスクアセスメントは、全社的な実施体制のもとで推進し、技術的な事項については、適切な能力を有する化学物質管理者等が実施します。
リスクアセスメントの実施時期は、
「リスクアセスメント対象物を原材料等として、新規に採用し、または変更するとき」
「リスクアセスメント対象物を製造し、または取り扱う業務に係る作業の方法または手順を新規に採用し、または変更するとき」
「リスクアセスメント対象物による危険性または有害性等について変化が生じ、または生じるおそれがあるとき」
に実施します。
ま た、リスクアセスメント対象物に係る労働災害の発生した場合であって、過去のリスクアセスメントの内容に問題のあることが確認された場合や、一定期間経過し新たな知見が得られたとき、過 去にリスクアセスメントを実施したことがないとき等については、計画的にリスクアセスメントを実施し、職場にあるリスクを継続的に除去・低減していくことが大切です。

イ.対象の選定と情報の入手
事業場において「製造または取り扱うすべてのリスクアセスメント対象物」をリスクアセスメントの対象とします。
リスクアセスメントを実施する場合に事前に入手する必要がある情報としては、SDS、関連する機械設備等についての危険性または有害性に関する情報、作業標準・作業手順書等、作業環境測定結果、特殊健康診断結果、生物学的モニタリング結果、個人ばく露濃度の測定結果などがあります。
また、新たなリスクアセスメント対象物の提供等を受ける場合には、当該リスクアセスメント対象物を譲渡し、または提供する者から、該当するSDSを入手することが必要です。

ウ.危険性又は有害性の特定
作業標準等に基づき、リスクアセスメント対象物による危険性または有害性を特定するために必要な単位で作業を洗い出した上で、GHSで示されている危険性または有害性の分類等に則して、各作業における危険性または有害性を特定します。

エ.リスクの見積り
リスクの見積もりは、リスクアセスメント対象物により労働者に危険を及ぼし、または健康障害を生ずるおそれの程度(発生可能性)および危険または健康障害の程度(重篤度)を考慮する方法と、労働者がリスクアセスメント対象物にさらされる程度(ばく露の程度)及びリスクアセスメント対象物の有害性の程度を考慮する方法等があります。
ばく露量の測定方法としては、労働者に個人サンプラー等を装着して呼吸域付近の気中濃度を測定する個人ばく露測定の他、一般的に広く普及している作業環境測定の気中濃度と作業状況からばく露量を見積もる方法や労働者の血液、尿等の生体試料中の化学物質や代謝物の量を測定し、ばく露量を把握する生物学的モニタリング方法があります。
いずれの方法も、測定値の精度やばらつき、作業時間、作業頻度、換気状況などから、日間変動や場所的または時間的変動を考慮する必要があります。
また実測に代えて、ばく露推定モデルを活用する方法もあります。
なお、リスクアセスメント対象物に係る危険または健康障害を防止するための具体的な措置が安衛法令等に規定されている場合、これらの規定を確認することにより、リスクアセスメントに準じる方法とすることができます。

オ.リスク低減措置の検討および実施
リスクの検討結果に基づいて、リスク低減措置の内容の検討を行います。
法令に定められた事項がある場合にはそれを必ず実施するとともに、下記のような優先順位でリスク低減措置の内容を検討の上、実施します。

  1. 法令に定められた事項の実施
    (該当事項がある場合)
  2. 危険性又は有害性の高い化学物質の使用中止、より低い物への代替化等
  3. 化学反応プロセスの運転条件の変更等による負傷が生じる可能性またはばく露の低減
  4. 工学的対策
    (防爆構造化、安全装置の二重化、設備の密閉化、局所排気装置の設置等)
  5. 管理的対策
    (マニュアルの整備、立入禁止措置、ばく露管理等)
  6. リスクアセスメント対象物の有害性に応じた有効な個人用保護具の使用

カ.リスクアセスメント結果等の労働者への周知等
事業者は、対象としたリスクアセスメント対象物の名称、業務の内容、リスクアセスメントの結果、実施するリスク低減措置の内容等を労働者に周知します。