労働衛生コンサルタント(労働衛生工学)口述試験やり取り
(令和6年1月中旬、大阪会場1日目)
中央試験官:受験区分、受験番号、氏名を述べて下さい。
→労働衛生工学、受験番号〇〇〇〇番、氏名〇〇〇〇と申します。
中央試験官:労働衛生の経験年数はどのくらいありますか。
→労働基準監督官として先月末時点で〇年〇か月の安全衛生指導の経験があります。
(その上で、安全衛生の業務経験を答えようとしたが、〇年〇か月ですねと念押しの確認が2度続き、この場ではそれ以上答えられず)
中央試験官:労働基準監督官として事業者を訪問した際に見られる労働衛生の問題点にはどのようなものがありましたか。
→①個別規制物質を使用しているが、局所排気装置が設置されてない
②局所排気装置があっても、十分な性能を維持・確保できていない
③呼吸用保護具も十分に使用できていない
④事業者だけでなく、労働者も法令遵守の意識に課題がある
といったことが特に中小事業者においてよく見られ、苦労することが多い。
中央試験官:今述べた問題点で、改善にとても苦労した点にはどのようなことがありますか。
→局所排気装置が設置や呼吸用保護具の使用について、事業者から法令で規定されている内容の説明を行う際、健康障害が特に生じていないから措置をする必要はないと抗弁されることも多く、単に法令で決まっているからという点だけでなく、なぜそのような規制が法令で求められているのかという背景を説明して理解を求める、意識改善を促すという働きかけを行うことに苦労しています。
左側試験官:局所排気装置の設置届を審査したり、見たりしたことはありますか。
→あります。先ほど労働基準監督官の経験年数を〇年〇か月と申し上げましたが、そのうち労働基準監督署での安全衛生担当係官が〇年、小規模署の監督・安衛課長として部下の専門官が審査した設置届を決裁者として審査する立場に〇年、労働局の地方産業安全専門官として〇か月の経験があり、一定件数の審査や指導を行った経験を有しています。
左側試験官:局所排気装置の設置等の状況で助言・指導に苦労した事案があれば述べて下さい。
→ある事業場で、作業環境測定が第三管理区分の評価結果となった単位作業場所が複数見られた事例について言及し、指導内容と苦労した点を述べた(実際の試験では詳細を説明しましたが、詳細は守秘義務の点で割愛します)。
左側試験官:労働基準監督署に備え付けられている測定機器を事業場に持ち込んで、照度や温度等を指導したことはありますか。
→あります。作業場所が寒くて作業できないと労働者から訴えのあった事例で温度計・湿度計を持ち込んで改善を指導したことがあります。
左側試験官:その他に、測定機器を持ち込んで指導した事例はありますか。特に風速計を持ち込んで指導した経験はありますか。
→あります。今述べた事例以外に、局所排気装置が特殊な形状をしていた事例について、風速計を持ち込んで制御風速が確保されているか、妨害気流の影響はないか等の項目を測定して、必要な指導を行ったことがあります。
左側試験官:中小企業の労働者では、呼吸用保護具等の着用ができていなかったり、十分でなかったりすることが多く見られると思いますが、あなたはどう指導しますか。どのように指導してきましたか。
→これまで私自身は、労働者が呼吸用保護具の着用を着用していない状況を 現認した際は「あなた自身の命を守るために必要なことです。」といメッセージを繰り返し伝えるようにしています。
特に特定化学物質等の発がん性物質では、「今すぐに異常や健康障害が出なくても、長い時間が経過してから異常や障害が出てくる疾病もある。良い職業人生を送ってほしい。そのために必要なことです。」ということを繰り返し伝えることが大事だと考えています。
左側試験官:(有害物に係る)健康診断結果で異常所見が出たような事案について指導したことはありますか。
→あります。有機溶剤であるトルエンを使用して塗装等の作業に従事する労働者に異常所見が見られた事案について指導したことがありますが、この事案はイレギュラーな事案で、最終的に調査を尽くした結果、労働者の私的な要因(バイクが趣味の労働者で洗浄作業にシンナーを使用しており、その際の曝露防止が十分でなかった)が主たる原因と結論を出しました。
(更問がされそうな雰囲気でしたので、先手を打ち)その事案では労働者の私的な要因が主たる原因と結論を出しましたが、そのように結論を出す前に、業務上の原因が存していないかは当然確認を行いました。
作業環境測定結果は第一管理区分でした。
当該労働者の作業過程で物質の取扱状況や保護手袋の使用状況等から経皮吸収されるような可能性がなかったかどうか、また当該労働者に作業環境測定で十分に捕捉できないような臨時の作業がなかったかどうか、有害作業の時間的な偏りが生じていなかったか、残業による作業量が増加していなかったかどうか、といった点について他の労働者と比較して十分確認を行いました。
(このように答え、追加の質問はありませんでした。よく試問される「作業環境測定結果は第一管理区分であるが、尿に異常所見が出た場合、どのようなことが考えられるか。」という質問の変形のようになりました)
右側試験官:令和4年5月に法令改正された新たな化学物質規制についての内容で、あなたの知っていること、理解していることについて述べて下さい。
→①法令遵守型から自律的管理への転換を目指すものであること
②リスクアセスメントの結果に基づく措置について、事業者の措置内容に係る裁量を大きく認めていこうという方向性での改正であること
③化学物質管理者を選任して、必要な措置を講じさせること
④保護具着用管理責任者を選任して、必要な措置を講じさせること
といったことが法令改正の趣旨・背景であり、実施が義務付けられる措置の一例であると理解しています。
右側試験官:わかりました。その新たな化学物質規制の中で、化学物質管理専門家と作業環境管理専門家の制度が創設されますが、それぞれどのような場面で登場するか説明して下さい。
→化学物質管理専門家は、例えば化学物質を取り扱う事業場で労働災害が多発しているような状況等が見られ、所轄労働基準監督署長から改善指示がなされた場合に改善措置等の意見を求めることとされている外部の専門家として規定されているものです。
また、作業環境管理専門家は個別規制に基づく化学物質に係る作業環境測定の評価結果が第三管理区分とされた事業場において、作業環境の改善の可否や改善措置等について意見を求めることとされている外部の専門家として規定されているものです。
(以上回答し、私からの質問を終わりますと告げられた)
その後、再び中央にいる試験官から質問が継続されました。
中央試験官:局所排気装置の主ダクトと枝ダクトにおいて、バランスを取らなければならない理由は何であるか。
→(質問の意図がよく掴めず)局所排気装置の性能を維持する必要があるため。
排風量や制御風速を落とさないために必要であると考えられます。
中央試験官:(反応がイマイチである様子が見られ)主ダクトと枝ダクトにおいて、バランスを取るのはどうしてですか。
→(再度その場考えましたが、それ以上の内容が頭から出てこず、先ほどと同様の趣旨の説明をしたように記憶しています)
中央試験官:労働基準監督官ではなくコンサルタントとして事業場を訪問したという前提で今から述べる質問に答えて下さい。製造業の中小企業を訪問したところ、法令未規制物質を少量使用している状況が認められました。全体換気装置は設置され、稼働しています。どのような指導をしていくことになりますか。
→労働者の作業の状況等を考慮することになるかと思いますが、法令未規制物質であるからといって危険・有害性が全くないというわけではありません。
危険・有害性が不明であっても、健康障害が将来的に生じる危険性は存しているので、第一義的には局所排気装置の設置を提案することになるのではないかと考えます。
中央試験官:(更問として)それでもその事業者から、使用量が少量であるから問題ないと主張してきたとしたら、どうしますか。
→危険・有害性が不明であり少量であっても、健康障害が生じる危険性がないわけではないので、やはり局所排気装置の設置を検討するよう助言することになろうかと思います。
ですが、それでもその事業者が全体換気装置の使用でやっていくというように主張されるのであれば、例えば許容濃度が定められているような法令未規制物質であれば、一度作業環境測定を実施するよう提案します。
その上で第一管理区分と評価されれば、作業手順の徹底と見直し、作業場所の環境の見直し、労働者への教育の実施、呼吸用保護具の適切な着用の徹底等について助言・指導することになると考えます。
中央試験官:はい、以上で試験を終了します。お疲れ様でした。
口述試験の試験官とのやり取りは15分であり、概ね上記のとおりでした。
<雑 感>
3回受験した口述試験の難易度・複雑度を振り返ると安全・衛生双方のコンサルタント試験を受けた受験生の皆さんが指摘している通り、労働衛生コンサルタント試験の口述試験が質問で深くその内容を試問されているように私も感じられました。
一方で、労働衛生コンサルタント試験(保健衛生)と労働安全コンサルタント試験(土木)の口述試験では「受験動機」について質問されましたが、労働衛生コンサルタント試験(労働衛生工学)の口述試験では労働衛生の経験年数とその中身についてのみ聞かれ、受験動機については聞かれませんでした。この点は、振り返ってみて驚いたことを記憶しています。
今後、「化学物質の自律的管理」は重要な施策になりますので、労働衛生コンサルタント試験(保健衛生)の区分を受験される皆様もぜひ理解していただきたい内容だと思います。
特に、「法令未規制物質を少量使用している状況が認められました。」という状況を想定した質問は、頻度も重要度も増してくるものと考えられます。
私の再現回答では言及できていませんでしたが、「リスクアセスメントの実施と結果に基づく措置の実施」について説明することも求められていると考えられます。
終わりの方で試問された「局所排気装置の主ダクトと枝ダクトにおいて、バランスを取らなければならない理由は何であるか。」についてが、一番詰まったように思います。
沼野先生の『新 やさしい局排設計教室』(第7版、294ページ)を見ると、試験官は「静圧のバランスを取る。」という回答を求めていたのではないのかとも思いましたが、そこまで頭が回らなかったことが悔やまれました。
少しでも参考になればと思います。